Chanmanの日記

作家と読書とセルフコーチングのブログ。 私の作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しております。

新しい村と魔女の森

 広い草原を抜け、山々を駆けた。途中、小さな村を訪れ、仕留めた獲物を売り、旅の資金を稼いだ。狼に困っている村で狼退治をしたところ、村長の娘と縁談を持ちかけられたが丁重に断った。たまたま出会った気の合う商人と一緒に異国の珍しい酒を飲んだ。港町の人の多さに驚いていたが、それ以上に初めて食べる海の魚介類の美味しさに驚く。 初めて船に乗り、船酔いする。 いろいろなことはあったが、今回も素敵な旅だ。そう思わせる出来事がたくさんあった。

 

「まいったな……」

 

 不慣れな森。どんなに森の中を歩き慣れているとはいえ、初めて入る森は用心するに越したことはない。港町で親切にしてくれたご老人から聞いた話によると、もうすぐ森を抜けることができるはずなのだ。が、ロビンは森の中をさまよっていた。

 

「まずい、日が暮れる」

 

 夜の森は危険である。凶暴な狼の群れに遭遇すれば命はない。そんな不安を抱きはじめた時だった。

 

 藪の中から物音がする。反射的に矢を弓にかけ、音のする方へ構えた。藪の中から姿をあわらしたのは、肩まで伸ばした栗色の髪の毛が印象的な、顔に幼さがまだ残る美しい女性だ。

 

 弓矢を構えるロビンに彼女は驚くが、その表情には鬼気迫るものがあった。そしてロビンの背に姿を隠した。

 

「え? え? なに?」

 

 突然のことにロビンは戸惑いを隠せない。彼女は肩で息をしている。そしてようやく呼吸が落ち着いたのか彼女はロビンに言った。

 

「た、たすけてください!」

「え?」

 

 すると彼女が出て来た藪から一匹の狼が現れたのだ。牙をむき出し、ロビン達に今にも噛み付かんと呻き声をあげる。

 

「お、狼?」

 

 驚くのもつかの間、ロビンに向かってその牙を剥いた。しかし、狼の単調な動きに合わせてロビンは彼女の肩を掴みひらりと躱す。狼めがけて狙いを定めた。

 

 躱された狼は着地すると同時に体をひねり、ロビン達いる方へと、鋭利な牙の生えた口を大きく開き再び跳躍した。

 

 しかし、狼の開けた大きな口には、ロビンの放った矢が突き刺さる。穿つ屋の威力によって、勢いのついた狼の体は空中でその勢いを殺し、狼は声をあげる暇もなく絶命した。

 

「いや~、危なかった」

 

 ロビンは手の甲で冷汗を拭う。

 

 一瞬で狼の息の根を止めたロビンの行動に理解が追いつかず、口を開け倒れた狼を見つめる女性。

 

「大丈夫? 怪我はない?」

 

 ロビンの声で意識が戻りハッとし言った。

 

「は、え、あ、う、うそ? いつの間に?」

「うん、大丈夫そうだね。この辺の人?」

「あ、へ? そ、そうですけど」

 

 改めて声をかけられた栗毛色の髪をした女性は、頰を赤らめながら言った。

 

「よかった~。あ、俺はロビン。初めまして、君は?」

「あ、はい私はカレンと言います。そ、それと、助けていただいてありがとうございます」

 

 カレンは深々とお辞儀をした。お辞儀に合わせて綺麗な栗毛色の髪が揺れる。

 

「いやいや、大したことしてないよ。狼ぐらいどうってことないさ。それよりこの森を抜ければ村があるって聞いたんだけど、もしかしてそこの人?」

 

 カレンは体を起こしてロビンの言葉に驚くも、彼の問いに素直に答えた。

 

「はい、確かにその村は私の住んでる村ですけど」

「そっか、なおさらよかったよ。案内してもらえるかな?」

「も、もちろんです」

 

 カレンはどこか嬉しそうに答えた。ロビンはそう言って、ひらりと馬に跨るとカレンに手を差し伸べた。

 

「さあ、行こう。もう日が暮れかけてる」

「は、はい」

 

 カレンは差し伸べられた手を見つめる。優しそうな整った顔からは想像できないような、豆だらけの手。それを意外そうに見つめ、その手に自らの手を乗せる。するとロビンはその手を優しく包むと、勢いよく彼女を馬へと引っ張り上げ、彼女を後ろ側へと座らせる。

 

「キャ!」

「ふふ、ごめんごめん、じゃあ、道案内よろしくね」

「は、はい」

 

 ロビンとカレンを乗せた馬は森の出口へと向け、その馬蹄を響かせた。

 

 

 

***

 

 

 

「お、この村だな」

 

 港町で聞いた村は、山の麓にある村だった。港の人の話によると、獲物も豊富で、よく港にも獲物の肉を売りにくる。今回の旅の終わりはこの村になりそうだと予感した。

 

 もうすでに日は暮れてしまい、村にある家からは夜を照らす明かりが漏れ始めていた。

 

 馬から降りたロビンとカレンは馬を村の馬小屋へ運んだあと、村の中心の大きな道を並んで歩いていた。すれ違う人々はカレンと歩く見知らぬ男に奇異な目を向けるが、カレンが笑顔を向けると、安心したようにロビンにも笑顔を向けた。

 

 ロビンはカレンにこの村に来た目的を告げる。

 

「カレンさん、この村でしばらく滞在できないかな? できれば少しだけ厄介になりたいんだけど。もちろんちゃんと働くよ」

「う~ん、村長に聞いてみないとわからないですけど、多分村長だったら快諾してくれると思いますけど」

 

 カレンの言葉に表情を明るくするロビン。大きくあくびをして両手を上げて背伸びをする。

 

「はあ、今日は色々あったからもう眠いや。この村には宿はあるの?」

「ええ、一軒だけなら……で、でも今日は助けてくださったご恩もありますし、うちでお世話させていただくことはできないですか?」

 

「うん、すごくありがたいけど、見知らぬ男をいきなり連れていってもご家族に悪いから今日は宿で十分だよ」

「でも……」

 

 シュンと落ち込むように声の調子を下げる。恩返ししたい気持ちも理解できなくもないのだが、今日は旅の疲れをゆっくりと一人で取りたいという思いもあった。落ち込んだ様子を見せるカレンにロビンは明るく言った。

 

「そしたら次の機会にお願いしようかな?」

「ほ、本当ですか? 絶対ですよ! 約束ですからね」

 

 ロビンは強くうなづき、カレンと別れた。しかし彼は重要なことを忘れていたのだった。

 

「あれ? 宿ってどこ?」

 

 

 

***

 

 

 

 昨夜は散々歩き回った挙句、結局宿らしきものは見つからなかった。しょうがなく、馬小屋で藁と愛馬に寄り添って朝を迎えた。凍えるほど寒くはなかったのだが、やはり朝は冷え込み、体を震わせた。

 

 ロビンは体を起こして背伸びし、町の中央を少しだけ散歩する。まだ、村は眠りに包まれていた。まっすぐ進み村の囲いの突き当たりまでやって来たがロビンは不思議な光景に首をかしげる。村のちょうど北東に位置するところにある門が、端材や鎖で頑丈に固定されていたのだ。

 

 何かおどろおどろしいように感じるが、門の隙間から見える向こう側を除くと、誰も足を踏み入れた形跡のない、深い森があった。木に巻きつく蔦。無造作に生える草。さながら原生林のようで、誰の侵入も許さない森がそこにはあった。突如森の中を赤い何かが飛び立つ気配がした。

ロビンは恐ろしさも感じつつも、少しだけ後ろ髪を引かれながら来た道を戻るとカレンがキョロキョロと何かを探しているように首を振っていた。

 

 カレンはロビンの姿を見るなり安堵し、息をこぼす。

 

「おはようございます、ロビンさん。昨日はよく眠れましたか?」

 

 馬小屋で寝たことは秘密にしておこう。余計な気を使われかねない、そう思いながらロビンは笑顔で彼女に答えた。

 

「それじゃあ、村長のところへ行きましょう!」

 

 テラスはロビンの手を引いて街の中を駆けていった。

 

 

 

***

 

 

「ほう……この村にしばらく滞在したいとな?」

 

 恰幅の良い白髪の髭を伸ばした紅い瞳の男が言った。この村の村長だ。

 

「はい、もちろんタダでとは言いません。村のためにも働きますし、狩りもします」

「ふむ……

 

 目をまっすぐに捉え、その真意を確かめようとする。村の全責任を負う彼の目は真剣であった。その眼光の鋭さに緊張の色をかくせない。

 

「ダメだ……

 

 帰ってきた言葉は期待していたものとは反対の言葉だった。ずっしりと重い言葉が発せられ、がっくりと肩を落とすと村長が大声で笑った。

 

「はっはっはっは!いや~冗談冗談。かまわんよ、別に滞在しても」

 

 突然の切り返しに、ロビンはしばらく理解が追いつかなかった。

 

「そっ、それじゃあ!」

「ああ、別にかまわんよ、空き家があるか調べてあげるから、少し待っていなさい。おい、カレン、カレンー! ああ、申し遅れたね? 私はロベルト、しっかりと村のために働いてもらうよ」

 

 村長は快く迎えてくれ、ロビンは安堵した様子をうかべため息をついた。

 

「お父さん?」

 

 扉から出て来たのは今朝あったばかりのカレンだった。両手には木のカップを二つ乗せたトレーを持っていた。

 

「あれ? 村長ってカレンさんのお父さんなの?」

「え、言ってなかったですか?」

「う、うん。初耳だよ」

 

 二人のやりとりに首を傾げる村長のロベルト。

 

「なんだ、二人は知り合いなのか?」

「ほら、お父さん。昨日話した、命の恩人だよ」

「なんと!」

 

 ロベルトは執務机を周り、ロビンの側まで寄るとロビンの両肩を掴み、バンバンと叩く。

 

「そうか! 君がうちの娘を助けてくれたのか! いや~ほんとうにありがとう! 君のような青年が村にいてくれたら村の安全は守られたようだな、はっはっは~」

 

 肩を叩く力がだんだんとますようで、ロビンの表情は少しずつ歪んでいく。

 

「ハァ~、そうかそうか。まあ、歓迎するよロビンくん!」

「あ、ありがとうございます!」

 

 叩かれた肩をさすりながらロビンは村長のロベルトへ礼をした。

 

「おい、カレン! 何してる、早く村を案内してあげなさい」

「ええ、わかったわ。行きましょうロビンさん」

 

 改めて優しく、もてなすような笑顔でカレンはロビンを促した。

 

「ああ、ロビンくん」

 

 村長が思い出したように声をかけた。

 

「はい?」

「ようこそ、一緒にいい村にしよう」

 

 

 

***

 

 

 

 カレンに村を案内してもらった。彼女の歩く姿はどこか気品が感じられ、村を説明する彼女の声には自信に満ち溢れていた。まる自分が村長であるかのように村の魅力を伝えてくれた。

 

 ーー誇らしく生き生きと。

 

 道行く村の人々が笑顔で彼女に声をかける。村人から信頼されている証拠だろうか。それに応える彼女は村長の娘という立場以上に、彼女自身の強さと責任感を感じさせられた。

 

 風がサラサラと彼女の髪を揺らす。野原に力強く咲く美しい花の香りに似た匂いを漂わせる。しぐさ一つをとっても、うら若い乙女が持つ儚さと、彼女自身が持つ強さが表れていた。彼は初めて会う「女性」に見とれていた。

 

……ぇちょっと、ねぇ!?」

「へっ……?」

「もう、ちゃんと聞いているんですか?」

 

 いつの間にか彼女は彼のすぐ目の前で、彼の目を見上げ、両手を腰に当てすこしばかりの怒気を込めて言った。

 

「いいですか? この村に住んでいただくということは、すこしでもこの村のことを知っていただかなければなりません!どこに何があるのか、どのようなお仕事があるか、どういう人たちがいるのか最低限知っていただかないと、ロビンさんが苦労するんですよ?」

 

 言葉の締めくくりにはひとさし指を立てて注意された。昨日見せた彼女の姿とは打って変わってしっかり者のようだ。

 

「えっと……あの……

 

 最初に見せた優しい笑顔とは裏腹に突然の説教に驚いてまともな応対ができなかった。

 

「私の余計な心配ごとを増やさないようにしてください!」

「はい……すいません」

「はい! わかっていただければよろしいんです! さあ、行きましょう?」

 

 彼女の怒っていた表情が一変し、笑顔で促してくれた。彼女の言葉は本当に気遣ってのことだろう。それはもう既に村の一員として迎えている証拠だったのかもしれない。彼女は自分の住んでいる村を誇りに思っている。村の人みんなが幸せでいることが彼女の幸せだろうとおもわされ、誰一人としてその幸せから漏れることは彼女は許せないのだろう。

 

「あっ! ちょっと待って!」

 

 急ぎ足で駆けていく彼女を追いかけた。

 

 

 

***

 

 

 

「以上で村の説明でしたけど、何か質問などはありますか?」

 

 この村は港町と深い森に挟まれた人口200人くらいで、村にしては多い人口だ。大きい川の水に恵まれ、その豊かな川の水のおかげで農業と牧畜が主な産業としてなりたっている。目立った特産品等はないが、良質な牛乳とチーズがこの村の名物で、港町の商人が頻繁に仕入れに来る。他にも綿花や花も豊かで、綿も良質なものが取れる。とても豊かな村だ。それほど大きくも小さくもない村だが、人々の活気があふれていた。

 

 手を後ろに組み、説明を終えた彼女はどこか満足げだった。

 

「いえ、特には。とても楽しかったよ」

「よかった、気に入ってもらえたみたいで。あ、お腹空いてませんか?」

「そうだな~、ちょうどお腹が減ってきたかな?」

 

 もう既にお昼を過ぎ、村の隅々を歩き回っていた。

 

「あ、そうだ! オススメのお店があるのでそこへ行きましょうか?」

 

 彼女に連れられたお店はお昼を過ぎ、夜の営業へ向けて準備していた。他の客は見当たらない。

 

「おばさ~ん! まだお昼ってできますかー!」

 

 馴染みのお店だからか、店主を呼ぶ声は親しげな声だった。

 

「ありゃ、カレンちゃん。いらっしゃい。おや? 彼氏を自慢しに来たのかい? やっとカレンちゃんも春がきたんだね~」

 

 小太りの料理屋の女将であろう女性が茶化すように彼女を迎えた。

 

「ちょっ……そんなんじゃないです! 昨日はじめて会ったばかりなのに、彼氏だなんてそんなことあるわけないじゃないですかっ!」

「おや?そしたら、はじめてじゃなかったら別にいいのかい?」

「うぅ~、だからぁ~! はっ! えっと、き、気にしないでくださいね! おばさんいつも冗談ばかり言ってて」

 

「おや、最近友達に彼氏ができたこと話してたのはそういうことじゃなかったのかい?」

「へっ……? いや、その、えっと……

 

 昼前に見せた表情とは打って変わって白い頬を赤く染め、俯く姿の彼女は可愛らしかった。

 

「はいはい、このぐらいにしとこかね。ご飯食べに来たんだろう? すぐ作ってあげるから座って待ってな」

「あ……はい、おばさんありがとうございます」

 

 女将は厨房へ戻るなり調理を始めた。包丁でまな板をたたく音が耳に心地よい。

 

 彼女は先ほどのやりとりがよほど恥ずかしかったのか、少しうつむき、未だ落ちつかない様子で目をキョロキョロさせ、時々ロビンの様子を伺っては恥ずかしそうに目を背けるのだった。

 

「えっと……気にしないでくださいね。おばさんったらいつもああなんだから……

 

 自らのペースを取り戻すように少し強めの口調で文句を漏らした。今日1日の彼女を様子とは違った一面が垣間見えた。

 

 

「えっと……、明るい……人だね?」

 

 話題を変えて、場の空気を変えようと質問した。

 

「ええ、本当にいい方なんです。私が子供の時からお世話になっていて、おかあさんみたいに私のこと心配してくれるんです……

 

 彼女の声色がすこし暗くなった。

 

「どうしたの?」

 

 急に落ち込んだ様子を見せる彼女に心配そうに尋ねた。

 

「実は私、幼い頃に両親を亡くしてて、お父さんに養女として育ててもらったんです」

「そっか……、辛かったんだね」

「いいえ、物心つく前だったから何も覚えていないので……。えへへっ、初対面なのにこんなこと言うなんて変ですよね?」

「ううん、そんなことないさ。そういうこと話してくれるってことは、僕もこの村の一員として認めてもらったのかな?」

 

 暗い空気を吹き飛ばすように勤めて明るい言葉を彼女に伝えた。

 

「ふふふ……、ロビンさんって優しいんですね?」

 

 下から覗き込むようにして彼の顔を覗き込む。頬をほんのりと赤らめ、見つめる瞳はすこし潤んでいたが、それがかえって彼女の美しい瞳を彩っていた。

 

 ぐぅ~

 

 やはり腹が減っていたのか、腹の虫が鳴き始めた。

 

「あ……

 

 空腹を知らせる音にほんの少し照れてしまった。

 

「うふふ……、お腹の虫がないてますよ?」

 

 きゅ~

 

「あっ!」

 

 カレンはおちょくるようにように言ったが、彼女の腹の虫は可愛らしい鳴き声をあげた。彼女は慌てて自分のお腹に両手をあて、恥ずかしそうに顔を赤らめ下から覗き込んだ。

 

「「ぷっ……ははははははっ!」」

 

 お互いに恥ずかしいところを見られた。それがかえって可笑しくなり笑いをこらきれなかった。

 

 そこに女将さんが出来上がった料理を運んできた。

 

「まったくお熱いね~、逆に料理が冷めちまうよ!」

 

 美味しそうな湯気を漂わせて女将さんが皿を運んできた。

 ニンニクと唐辛子で風味を出したオイルパスタだ。食欲を刺激するその香りは、午後を過ぎた空腹の胃袋には強烈だ。女将さん特製のベーコンとマッシュルームは麺に絡みやす良いようにカットされており、備え付けのパンは、表面が美味しそうなきつね色に焼いてある。

 

「おお!うまそうだ!」

「本当、いい匂い」

「それじゃあ……

 

「「いただきます!」」

 

 パスタをフォークに絡め、口に運ぶ。ニンニクの香りと唐辛子のピリリとした刺激が食欲を増し、噛み締めたベーコンの肉の旨みがさらに麺と絡み合う。

 

「う、うまい!」

「本当、いつ食べても美味しいね、おばさんの料理」

「あり合わせで作ったから、そんなたいそうなもんじゃあないよ、こんなんでよかったらいつでも準備してあげるよ」

 

 すこし遅い、楽しい昼食時間をすごした。

 

 

 

***

 

 

 

「ありがとう、すごく美味しかったよ」

「お礼なら、おばさんに言ってください。私はお店を紹介しただけですから」

 

 喜んでもらえたのが嬉しかったのか、すこし頰を染めながら謙遜して笑顔で応えた。

 

「でも、ありがとう。久々に楽しい食事だった」

「ふふふっ……よかった、おばさんもロビンさんのこと、気にいってたみたいですし」

 

 女将さんのお店を後にし、もうすぐ夕方になろうとしている頃、ゆっくりと村長の家へ足を向けていた。村の中は昼とは違い、人がだんだんとまばらになっていった。ところどころ、家からは夕食を準備する煙が立ち上る。

 

「今度またゆっくりお話し聞かせてくださいね?」

 

 一緒に歩きながら呟くように彼女は言った。

 

「え? 俺の話?」

「もう、ロビンさん以外に誰がいるんですか。今日はほとんどロビンさんのお話し聞けなかったです」

 

 村を案内してくれていた時のように、下から見上げて、腰に手を当て、怒っている。

 

「まあ、カレンさんとおかみさんばっかり話してたからね」

 

 本気で怒っているとは思っていないのか、少しからかうように言った。

 

「むぅ、私たちが悪いように言うんですね?」

 

 唇を尖らせて、不機嫌そうに言う。

 

「いやいや、そんなつもりは」

「い~え、そんなつもりがありましたー」

「え~」

 

 お互いに冗談を言い合うように掛け合った。

 

「でも、聞かせてくださいね。ロビンさんのこと」

「ええ、俺の話だったらいつでも」

 

 ロビンは微笑んでそう答える。

 

「約束ですよ?」

「もちろん」

 

 そう話しているうちに二人は村長の家へとたどり着いた。幸いにも空き家があったらしく、そこを使ってもいいようだ。女将さんが管理しており、数日前に掃除をしていたのですぐ使えるそうだ。

 

「じゃあ、ロビンくん、早速だけど明日から仕事だ。今日はゆっくり休んでくれ。荷物は全部届けてある。あとこれは鍵だ。」

 

 村長から鍵を受け取る。凹凸が単純に連なる鉄でできた鍵だ。

 

「はい、わざわざありがとうございます」

「気にすることはない、村の一員になるんだから、当然のことをしたまでだよ」

 

ロベルトはロビンの肩を叩いて、改めて迎え入れてくれた。

 

「あ、すこしお尋ねしたいことが……

 

 ロベルトは微笑み返す。

 

「なんだい?」

「村の北東にある森ですけ……

「ダメ!」

 

 突然カレンが大声をあげて言った。

 

「ロビンさん、ぜったいに北東の森……、いえ、『魔女の森』へ近づいてはダメですよ!」

 

 彼女の見幕に圧倒されて困惑した。魔女という言葉は耳にしたことがあるが、本当に実在しているのか疑問だった。しかし、彼女の様子を見る限りでは、悪いことをした子供を本気で叱る母親のように注意をする反面、その目には恐怖心が感じられた。

 

「わ、わかったよ。びっくりした~」

「こら、カレン。ロビンくんが驚いているじゃないか」

「だって、魔女の森は本当に危ないんだから……

「……詳しく聞かせてもらえますか?」

 

 ロビンは狩人だ。獲物を求めては森や野原を駆け、矢を射る。その経験からか北東の、いや魔女の森と言われる森が誰も踏み入れていない、違和感に気付いたのだ。

 

「ふむ……

 

 すこし考えるように顎に指を当てる。

 

「まあ、明日早速仕事だから次回にしようか、カレンに連れまわされて疲れてるだろうし」

「え! お父さんひどい! 案内しろって言ったのはおとうさんでしょ!?」

 

 突然の村長の言い草にカレンは抗議した。

 

「まあ、というわけで明日からがんばろう、ロビンくん」

「え、ええ。わかりました」

 

 はぐらかされたようで疑問を残したロビンだったが、これ以上聞いても聞き出せそうにないと判断した。その様子を見て安心した村長は挨拶を告げ帰宅した。納得が行かないカレンは村長にまだ何か言いながら彼の後ろについていく。

 

 二人をすこし見送ったあと、気づいたようにカレンがまたこちらを向いて笑顔で手を振った。ロビンもそれに応えるように微笑み返し手を振った。

 

 村の一員とはいえ、この村では触れてはいけない部分にいきなり触れてしまったのはまずかったのかもしれないと思うロビンだが、こうして寝る家と仕事を与えてくれているから過ぎた心配はしないことにした。

 

「仕事、頑張るか」

 

 そう言って新しい自宅へと足を運ぼうとしたのだが――

 

「あれ? 家どこ?」