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Chanmanの日記

作家と読書とセルフコーチングのブログ。 私の作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しております。

小説更新!

投稿サイトでアップしてる小説を更新したぞ!

かなり久しぶりだぞ!

 

いや〜だいぶ時間かけた?

 

いや少しくすぶっていたところだな。

 

でもでも、やっと今の章のプロットがまとまりつつある!

 

いい感じ〜!やほ〜!

 

以上!

キャラクター作り

小説を書く上で大事なものといえば、キャラクター。

 

世界観を支えているのがキャラクターなのだ〜!と偉い作家さんがおっしゃっておりました。

 

そういった意味では小説を思いつきのように書き始めた私にとって、キャラクター作りの勉強を全くしていない……

 

それはおかしい!!(ハイエフィカシー!)

 

当然のごとくキャラクターの作り方を網羅していておかしくないのだ!!

とエフィカシーを高めまくる。

 

キャラクターを作るといっても基礎的なものをしっかりと抑えようと思い、本を買おうと思う。

 

ちなみに私は未知の世界を知ろうというときは大量の本を読む。小説を書く!という場合であれば作品作りについての本をかたっぱしから読むようにしている。

 

そうすれば、ある程度のパターンが決まって出てくる。そして自分のものにできる。

アウトプットすること(小説を書く)ことも大事だが、インプットも大事だ!(小説や関連資料)

 

というわけで今、海外にいるので日本に帰ったら、ムッチャ買う予定!以上

 

アリスとの日常 1

アリスと魔法

 

アリスとの生活は非常にゆっくりとした一日を送っている。張り詰めた空気は一切なく、その日その日を味わうような生活だった。

 

朝起きて、朝食を取って、森を探索し、薬草や花、いつも食べている木の実を集め、食事をとり、昼寝をした。椅子に座って昼寝をしているのだが、起きるといつの間にか小さな魔女は自分の足に寄りかかり眠っていた。そんな日が続くと不思議と心が穏やかになっていった。そしてお昼寝が終わるとアリスは魔女としての仕事が始まるのだ。

 

ダイニングのその向こうの扉にはいると、部屋をキラキラと明るく照らす小瓶が三つ、机の上の棚に大切そうに置いてある。そのほかには目立った物は見当たらず、魔法に使用する薬草や花が籠の中に丁寧に置いてあった。

 

小さな木の器に小川の一番澄んだところの水と薬草と花びらを浮かべ、アリスがそっと息を吹きかける。するとその薬草と花びらはたちまちその色と、鮮やかさを増した途端、水と薬草と花びらは一瞬にして消え、小さな光の粒となる。

アリスは準備した小瓶の中へと誘うように片手を優しく添えるとその光はふわりと瓶の中へと落ちていった。すべての光が小瓶の中に収まると、コルクの蓋で栓を閉め、愛おしそうに胸に抱きとめ、「ありがとう」とつぶやく。その後、小瓶を丁寧に棚に並べて、魔女としての仕事が終了する。

 

初めはその小瓶に光を集める光景見たさに、部屋に訪れその一部始終を見ていたが、次第に小瓶を優しく抱きしめる時のアリスの表情を見たいがために部屋を訪れるようになった。

終わった後、そばまで駆け寄ってくると、じっとこちらの顔を見つめあげる。

 

これは一度、魔法の美しさに魅了され、褒めてあげ、アリスを頭を撫でてしまったことがことの発端だった。頭をなでると子猫のように目を細め気持ちよさそうにしている。この魔法が使えるようになったときに、アリスの母も頭を撫でて褒めてくれたのだろうか。

 

その魔法は自然の力を借りて、少しずつ少しずつ、この大地に恵みを与える魔法だという。他の命を犠牲にして人は生きており、そこに感謝の思いをのせ、真心を尽くせば自然は応えてくれるとアリスの母は、アリスに教えてくれたそうだ。

 

アリスの母が病に倒れ、その命が尽きるそのときまで、感謝の思いの大切さを毎日アリスに語ったそうだ。

その命が尽きる瞬間、最高のおまじないをアリスに本人にかけてくれたらしいが、そのときのおまじないのコトバを思い出せないとアリスは言っていた。

アリスの母はそのときが来れば必ず、自然とわかるようになると教えてくれたそうだが、ロビンもどのような魔法、否、おまじないかどうか気になっている。

しかし、アリス本人が思い出さない限りそのおまじないを聞くことはないだろう。

 

思い返せば、お世話になっている村はよく実り、豊かな村だ。それに今まで転々としてきた村の中でもダントツの獲物の量であり、本当にこの魔法のおかげでこ地は潤い、豊かになっていると思い始めていた。そうなるとアリスはこの地で、村で、とても重要な存在なのではないかと思案する。

アリスの母は一週間に一度程度でその効果は持続するというが、アリス本人は毎日行わないと効果が出てこないという。頑なにこの地を離れるのを嫌がる理由もこれなのかもしれない。

 

生き方

アリスがよく食べているこの木の実は、母が採り方、乾燥の仕方、高い栄養を備えていると教えてくれたものだ。このあたりの木は実をよく実らせていたため、食べることに困ることはなかった。

何年も食べ続けていた木の実が、この一週間味気のないものに感じていた。木の実そのものに味は付いているものの、いつぶりかわからない温かい手料理を食べて以来、わからなくなっていた。

 

彼が村へと帰って一週間が過ぎた。彼はすぐ来ると約束したはずなのに、彼と出会ったこの場所で、いつもフェニスと首を長くして待っている。だが、影も形すらも見えなかった。フェニスは時々村の人に見つからないよう、姿をくらませて様子を見に行くが、村の中の様子まではわからなかったようだった。

 

彼を待ち、日暮れのたび自然と涙が溢れていた。母が亡くなったのもこの日暮れ時。真っ赤な真っ赤な赤い空。そんな夕日は一日の終わりと命の終わりを同時に告げる。母が大好きだった赤色は嫌いな色になってしまった。自分の瞳が同じ色をしていることさえも。いつも逃げるようにベッドに潜り込み誰が聞くこともない泣き声をあげた。母を何度も何度も呼べど、その呼びかけに応えてくれるのは誰もいなかった。

 

***

 

過去を打ち明けてから1週間が過ぎたが、悪夢は拭い去ることはできず、カレンは心配し色々と世話を焼いてくれていた。しかし少しだけ肩の荷が下りて、前よりも明るく振舞うことができるようになっていた。

 

「ロビンさ~ん!」

 

ロビンが畑仕事に精を出していると昼食を持ってきたカレンが大きな声で呼ぶ。ちょうど木陰になっている場所に並んで座り、カレンが作った昼食を食べた。

 

「どうしたらいいんでしょう? お医者様にでも聞いてみますか?」

「いや~、あんまりカレン以外に知られてくないんだよね」

「わ、私以外にですか? し、仕方ないですねぇ、私がなんとかするしかなさそうですね」

 

カレンは頬を染め、人差し指を立てていった。

 

「はは、ありがと」

 

以前のように悪夢を見ても旅に出なければという衝動は無くなっていた。ただ少し弱気になることがある。そんな時はカレンが相談に乗ってくれていた。今日はカレンがロビンのためにとっておきの悪夢対策を思いついたと、話し始めた。

 

「あの~、提案、なんですけど、ロビンさんって今一人暮らしじゃないですか?」

「うん、そうだね」

「だ、だから、一人で寝てるわけですよね」

「うん」

「もしかしたら、一人で寝てるから、またあの夢を見てしまうんじゃないかな~と思って」

「なるほど、それは思いつかなかった」

「だ、だからもしかしたら、そ、添い寝役でもいればもしかしたら、見ないかも~なんて思ったりして」

 

(言っちゃった言っちゃった言っちゃった)

 

「添い寝か……ん~」

 

 添い寝という言葉に考え込む。

 

「だ、だから、もしロビンさんが良かったら、わ、わたた、わた……

「ああ! そうだ! そうだった!」

「ふへぇえっ!?」

「ありがとう! カレン!」

 

 カレンの両肩を掴み、礼を伝える。

 

「ふへぇえ!? わ、私でよければその……

 

 カレンの顔を一気になぜか紅潮していた。

 

「今日から準備しないとな!」

「ふへぇえ!? 今日からなんですか!」

「うん! 善は急げってね!」

 

 カレンの顔の紅潮はついに限界を迎えてしまった。

 

ーー

 

「ど、どこもおかしなところはないよね?」

 

カレンは自室の全身鏡で下ろし立ての服を着て、体を左右に振りながら確認していた。

 

「うん、これなら大丈夫だよね。パジャマは新しいのだし。し、下着だって……

 

 納得がいったのか腕を組んでうんうん首を縦にふる。

 

「よし!」

 

 自室の扉をゆっくりと開き、顔だけをだして左右を確認する。

 

(だ、誰もいないよね)

 

ゆっくりと廊下、階段を抜け、無事に玄関を抜け、玄関に鍵をかける。

 

「ふぅ~、緊張した~」

「何が緊張したんだ?」

「ふへぇえ!?」

 

突然の呼びかけに背後を振り向くと、父のロベルトがいた。

 

「お、おとうさん! 驚かさないでよ!」

「はっはっはっ! 悪い悪い! ところで~どうしたんだ~、そんな荷物抱えて、こんな夜に~?」

 

いやらしい笑みを浮かべ、何かを探るように問い詰めるロベルト。

 

「な、なんでもないわよ。ちょっと散歩するだけよ」

「散歩だけにそんな大きな荷物は必要ないんじゃないかな~」

 

何か得心があったのか、ロベルトはニヤリと笑みを浮かべる。

 

「な、なによ!」

「ほっほ~ん、そうか、そうか! カレンにもついに男ができたか。それで今日はしっぽりとお泊まり会ですかな?」

「ちっ、違うもん! 添い寝だもん! ……はっ!」

「はっはっはっは! 添い寝? 昔はおとうさんに『怖くて眠れない~』って言ってよく添い寝してくれてたけどなぁ」

「昔はでしょ!? 年齢考えてよ!」

「はっはっはっは! まあまあ」

 

今にも噛みつきそうなカレンをあやすロベルト。

 

「ま、とにかく、ロビンくんによろしく伝えておいてくれよ! パパが娘を頼むって!」

「なっ、なななな何いってるのよ~!」

 

笑いながら家の中へと消えていくロベルト。

 

「~~~~っ、お父さんの、バカ!」

 

***

 

「もう何よ! し、ししししっぽりだなんて、おとうさん何考えてるんだか。大体私はロビンさんの悪夢対策のために、そそそそ、添い寝してあげるだけなんだから」

「す、少しも期待なんか……してるけど……

 

ブツブツとつぶやいていると、いつの間にかロビンの家の前についていた。いざ扉を目の間にすると、胸が高鳴っているのがわかる。

扉をノックするが応答がなかったので不思議に思って扉を開いた。

 

「ロ、ロビンさ~ん、私でーす。カレンでーす」

 

部屋の中は真っ暗だった。まだ明かりを消すのは早すぎる時間帯だ。

 

「ロビンさーんいるんでしょ~、出て来てくださ~い」

 

(はっ! まさかこういう演出? いやいやいや、真っ暗じゃないといやだとか?)

 

妄想が暴走しそうなのを抑え、テーブルの上に一輪の花とメモ書きのようなものがあるのを見つけた。

 

(ま、まさか指示書のようなもの? この通りに行えとか、そういったことを!?)

 

期待半分、不安半分、ドキドキしながら丁寧に折り曲げられたそのメモを開いた。

 

「は?」

 

狩りに行ってきます! ちゃんと帰ってくるから安心してください。ロビン

 

……ロビンさんの、バカぁ~~~~~~!」

 

***

 

陽の光がだんだんと赤く染まり始めた頃、まだ解けかけた雪が残る森の中をロビンは歩いていた。初めて訪れた時とは全く景色が変わっており、いくばくかの不安を抱えながら森を進む。

自然と体があの優しい光が包む庭へと進んでいるのがわかる。徐々に近づいているとわかると不思議と心が軽やかになった。もう目前というところで、銀髪の美しい少女の姿が見えた。両膝を抱え俯いているのか綺麗なルビー色をした瞳のアリスの表情は見えなかった。

 

突然、顔を上げたアリスは立ち上がった。辺りをキョロキョロと見渡し、待ち続けていたその姿を探す。

 

「こんにちわ、アリス」

 

光の庭へと歩みよりながらアリスに微笑みかけた。するとアリスは泣きそうな顔をして胸へと飛び込んできた。アリスはロビンの胸に抱きついたまま顔を上げようとしなかった。時々鼻をすする音をさせながら肩を震わせていた。

 

「ロビン、遅い」

「うん、ごめん。ちょっと色々準備してたんだ」

 

カレンの仕事を突然断り、またこっそりと抜け出すのはとてもできなかった。そして自分の過去を話してからカレンはより一層自分のことを気にかけ、世話をしてくれていため時間を見つけることがなかなか困難であった。 

 

しかし、出会ってまだ二回目だというのに、こんなにも懐かれているのは悪い気はしなかった。ただ一つ気になるのは、その痩せたその体だった。前出会った頃のよりも細く感じる。幼い頃に親を亡くした少女を支えていた木の実は栄養があると言えるだろうが、育ち盛りであろうアリスには不十分だと感じた。

 

「もう来ないかと思った」

 

涙声でそういうアリスは背中に回した腕を離そうとしない。

 

「すぐに来るって言った」

「ごめんな」

 

服の裾をより一層強く掴み、なかな離そうとはせず、寂しさをその小さな体いっぱい使って表していた。慰めるようにそっとアリスの頭を撫でるともっと撫でて欲しいと言わんばかりに猫のように頭を擦り付けてきた。

 

「お腹減ったろ? いっぱい食べ物持ってきたよ」

「ほんと!?」

 

アリスは顔を上げ一瞬目をキラリと輝かせると同時に再び恥ずかしそうに顔をそらす。その目は涙で腫れており、とても今泣いて腫れ上がったようなものではなかった。ずっと泣いていたのだろうか、もっと早くにきてあげるべきだったと、ロビンは自らの無神経さに苛立ちを覚えた。しかし、それを表情にださず、そっと彼女の涙を指で拭い、再び頭を優しく撫でた。不思議そうに上目使いで見つめ返す彼女に言った。

 

「ご飯にしよう、腹減ったろ?」

「うん」

 

小さく返事を返してくれたアリスと小屋へと向かう途中、となりを歩くアリスを見ると胸が締め付けられる。その横顔にはすこし肉が付いているが、もしそれがなくなってしまえば骨と皮だけの姿へと変わってしまう。泣きはらした目はより一層、やせ細ったアリスをよりみすぼらしく変えてしまっていた。何がアリスをここまで追いやったのか。以前会った時には、村へ行くのを頑なに拒み続ける理由として考えられるのが村と何かしらの確執があるということ。それを聞き出すのは彼女にとってはよくないことであろう。

 

魔女

 

その事実がもやもやして胸につかえたままだ。か弱く、貧弱で、今にも壊れしまいそうなこの少女は、魔女であるという理由から村の人々から嫌厭されているという事実を認めたくなかった。村長やカレンを始め、村人たちは何故アリスを恐れるのか? その問いは頭の中をぐるぐると回り続ける。

 

悲痛な思いでアリスを見つめながら歩いていると、こちらの視線に気づいたのかアリスはこちらを見て、服の袖をつかんできた。赤い瞳をさらに赤く染めた目がこちらの瞳を心配そうに見つめてくる。

 

「辛い?」

「え?」

「悲しいの?」

 

アリスは他人から見た、自らの状況を気づいていないのだろうか? 込み上げてくるものを押し殺し、不安を与えないように笑顔で答えた。

 

「大丈夫。さ、ご飯食べよう」

「うん」

 

少し照れたようにはにかみながら答えてくれた。その笑顔に応えるように微笑み返し、アリス今までの辛さや寂しさ、そういったものがもう降りかからないようにアリスを見守ろう、そう静かに心の中で誓いを立てた。

 

今回はたくさんの食材や雑貨を買った。思い立って急に準備をしたから足りないものがあるかもしれないが、この量なら食べるに困ることはないだろう。

 

まず燻製。

特に濃い味付けをしたものを中心に持ってきた。鹿の後ろ足を丸々一本。冬の間、ぶどう酒、塩、数種のハーブそして貴重な黒胡椒を混ぜた液に一週間漬け込み、結構な期間冷気で乾燥させたものだ。塩の量を多め調整し、乾燥期間も長い。長期保存用に作っておいたものだから、食べただけで少し喉が乾き、酒が進む。まあ、いわゆる自信作というものだ。

 

他の燻製はイノシシのバラ肉をブロックををぶどう酒と塩で漬けたもの数個。オス鴨を半分にぶつ切りにし、同じく塩漬けにしたものを二つ。

 

硬めのパンは少しの間だけ保存がきくものだ。おかみさんが俺のためにって焼いてくれたもの。そして牛乳。育ち盛りだろうアリスのために持ってきた。あとは簡単な調味料だ色々と必要だろうと思われるもの。今更だが何か甘いものでも持ってくればよかっただろうか。そんなことを考えながらテーブルの上へと並べていく。

 

カバンの中から出てくる食べ物を目をキラキラさせながら見ているアリスの口からは、よだれがすでに糸を引いてテーブルへと垂れていた。その姿がとても微笑ましく、つい吹き出してしまった。

 

急に笑い出した俺を姿を不思議そうに見上げると同時に、自分のよだれに気付きすぐに服の袖でよだれをぬぐい、恥ずかしそうにうつむき口を尖らせながら目だけこちらに向けて言った。

 

「見た?」

「ああ、バッチリ」

「~~~~~~っ」

 

ああ、こういう表情もできるんだなと思わせるぐらいに、表情が変化する。そして今は恥ずかしそうに頬を染めて、口を尖らせている。

 

「ごめん、ごめん。さあ、ご飯にしよう」

「うん!」

 

いつの間にか二人の間の距離がなくなったような気がした。

 

***

 

目覚めのいい朝はいつも気持ちがいいものだ。朝日の光。それに応えるように反射する朝露と鳥の鳴き声。ひんやりとした澄んだ空気を肺いっぱいにに送り込めば身体中にその空気が駆け巡るのを感じる。そんな朝には悪夢を見ていたことを忘れさせてくれる。

 

いや、見ていないのだ。ここ数日不思議と悪夢が忽然と姿を消していた。そんな素晴らしい朝を届けてくれるのは、まだ寝ぼけて目が半開きの小さな魔女、アリスだ。

 

夜寝る時は、彼女の希望と自らの試みもあり二人同じベッドで寝るだが不思議と悪夢を見ることはなかった。

 

アリスはまだ覚めきらない目をこすりながら、小屋のすぐそばを流れる小川へと向かう。小川のそばへ座り、肩から下げていた赤いポシェットから小さな小瓶を取り出した。その小瓶の中身はキラキラと光り輝く小さな粒がたくさん瓶の中をゆっくりと不規則に動き回っていた。アリスは一度その小瓶を胸へと抱きしめ、コルク蓋をあけ、ゆっくりとその光を小川の源泉へと注いだ。その光は一瞬小川全体を照らし、ゆっくりとその光が消えていった。アリスはその小瓶の蓋を閉め、大事そうにポシェットに入れた。

 

彼女の家を訪れるたび見せてくれるその魔法を毎日、毎朝欠かさず行うアリスに何の魔法なのか尋ねると少しだけ切なげな表情を浮かべアリスは言った。

 

「これは豊穣の魔法、お母さんとの約束」

 

自らの母の話をするときは少しだけ悲しそうな顔をするが、話しているときの彼女は思い出を振り返る様な、そのとき過ごしたときを懐かしむ様に話してくれた。

 

「お母さん、病気で起きなくなったの」

「え?」

 

唐突に自らの母の死を語り始めた。

 

「お母さんは魔女だった。だから村にいるのはダメだって言ってた。よくわからなかったけど、私も村に行くのはダメだって言われた。その代わりにお母さんはフェニスを連れてきてくれた。だけどお母さん病気になったとき、約束したの。豊穣の魔法を毎日欠かさずするって。村に大切な人がいるからして欲しいって、村の人たちがすぐ気付いてくれるって」

 

静かに話を聞く俺の手に自分の手を重ねてきた。

 

「私、わからなかった。でもずっと守ってる」

「うん、そうだね」

「私、いい子?」

「うん、いい子だよ、約束を守れるいい子だ」

「えへへへ」

 

照れた様子で頬を染めるアリスはとても可愛らしかった。そして母との思い出を再び語りづづけた。

 

「お母さん病気がひどくなったから、頑張っておまじない覚えたの。いつも『ありがとう』って言うといいって教えてくれた。」

「……」

 

急に黙り込む彼女は俯いて困ったような表情を浮かべ、目尻に涙をためていた。

 

「でもね、一番大事なおまじない忘れちゃったの……、お母さんが起きなくなる前に、私にかけてくれた、教えてくれたおまじない……」

「それってどんなおまじないの?」

「ううん、全然思い出せない。だけど……すごく大切なおまじない。キラキラがいっぱいになるんだって……」

「そっか、でも思い出せるよきっと。大事なおまじないなんだろ?」

「そうかな?」

「そうさ、お母さんが最後に残してくれたおまじないだ。今は忘れてるだけ。大事なおまじないだから、きっとしっかりとしまっててて、置き場所を忘れてるだけだよ」

「……うん、ロビンがそう言うならそうかもしれない、今はちょっと忘れてるだけ」

「きっと見つかるよ」

「うん」

 

しばらくの沈黙の後、アリスは寂しそうに訪ねた。

 

「……また村に行くの?」

「うん、そうだね」

「また、来てくれる?」

「俺が、来なかったことがあったかい?」

「……二回目は遅かった」

「あははは、それは、ごめん」

 

アリスは静かに俺の背中に両手を回して抱きつくように、胸に顔を埋める。村へ戻る時にはいつもこのようにして抱きついてくるのが習慣となっていた。

 

そして、ゆっくりと体を離して、寂しげだが笑顔を向けてくれた。

 

「また、来てくれるおまじない」

「うん、おまじない」

 

そう言ってお互いの小指を絡ませて、一、二、三と三回。手をお互いに上下させる。そして、アリスは指揮棒を振るように指を振る。その軌跡を辿るように光が現れ、すっと俺の手の中に吸い込まれていった。

 

「ロビンが守られますように」

 

その小さな手でぎゅっと、俺の手を握るアリスの手はひんやりとしていた。

 

「じゃ、また来るよ」

「うん、ロビン。ありがと」

 

アリスは光の庭の入り口まで見送ってくれた。振り返ると寂しげだった表情は微笑みに変わり、手を振ってくれる。それをお互いの姿が見えなくなるまで続けた。

 

***

 

ロビンは考えていた。

カレンが言ってくれた言葉が頭の中でこだまし、言葉を繰り返し繰り返しつぶやき、考えていた。

 

ロビン自身がいなくなることで不幸になる人がいる。

 

幸せになってはいけない人なんているわけがない。

 

何度も何度も繰り返し、心に負った傷が少しずつだが癒えていき、今まで押さえつけていた幸せへの欲求が芽生えているのを実感している。

 

だとすればロビン自身がいることで幸せを得ることができるのは一体誰なんだろうか……、そして自らも幸せを得ることができるのなら、自分はどうしたらいいのかを自問する日々が続いていた。

 

村で仕事をしている時も、狩りの時も、考えない時間はなかった。

 

あまりにも深刻な顔をしていたようで、カレンが村を出て行くんじゃないかと心配することもあった。

 

しかし、人生を左右するような大命題の答えを見つけるのはまだ先のように思う。

 

アリスとの生活。

 

少なからず、その生活に満足していた。

村での生活よりもゆっくりと時間を味わうようなその過ごし方が、今まで何かに掻き立てられることを忘れさせてくれていた。

 

少しずつアリスとの時間が増えていくにつれ、アリスが次第に特別な存在へと変わっていくのを実感していた。

 

黒鉄一輝とエフィカシー

落第騎士の英雄譚

 

僕が初めて買ったライトノベル。まあアニメから入ったのですが。(2期はよ!)

 

この主人公、黒鉄一輝。

 

こんな男になりたい! と思ったのは初めてかな? 憧れますね。僕がライトノベルを書こう! と思ったのもこの作品がきっかけです。

 

落第騎士の英雄譚』を知らない人のために簡単に説明。

 

魔導騎士と呼ばれる異能を操る騎士の世界。魔導騎士を目指す一人の少年、黒鉄一輝。彼は魔導騎士の才能は全くなく、保有魔力も常人の十分の一。あまりの才能の無さに、家族、世間にも見放された。才能のない彼は魔導騎士になる夢をあらゆる可能性を打ちのめされていくが、唯一掴んだチャンス、七星剣舞祭を優勝すれば魔導騎士となれる。そしてそれを優勝を目指していく。——というストーリー。

 

ざっくりいうと……

落ちこぼれが、自分を信じて、頂点を目指す。

という話ですが……

 

ああ、思い出すだけで一輝の姿が目に浮かんで涙が……

 

一輝はとことん自分の才能の無さを認めているんですね。だけども自分の可能性を決してあきらめず、頂点を目指していく話は、まさにコーチングでいう『ハイ・エフィカシー』であります。

 

黒鉄龍馬という彼の祖父が雪山で遭難した彼を救い出した時に行った言葉はとても印象的です。この人は一輝にとっての最高のコーチでした。

 

彼のかけた言葉は一輝を勇気付け、魔導騎士になることをあきらめずそして頂点を目指すきっかけとなりました。

 

一輝は黒鉄龍馬の言葉もそうですが、とことん自分の可能性を信じたわけですね。能力がないに等しいのに。

 

絶対諦めないマインドを持って努力する彼の姿を見て周囲が巻き込まれていき、次第に彼を取り巻く環境は変化していく。

そしてついに彼は……まあどのように結末を迎えるかは是非本を買ってください。

 

彼の一環した行動は全て「魔導騎士になる」、そのあと彼の夢はどうゴール設定をしたのか知りませんが……。そして七星剣舞祭優勝はその通過点に過ぎない。彼にとっては優勝は当たり前のことなのです。

 

コーチング理論からして抽象度の高いゴールを決めて、それを目指して努力する。その通過点はコーチング実践者からしたら、当然通過してさらに成長するのは当たり前のことなのです。これぞエフィカシー

 

まさしく黒鉄一輝はコーチングを自ら実践した主人公と言えるでしょう。エフィカシー満々の主人公です。

 

小説の主人公とはいえ、憧れますね!

 

あ、もう一回アニメと小説みよう。

 

 

ロビンの過去

 帰ってこない。

 

 いつでもお腹を空かせて帰って来てもいいようにと、少しばかり贅沢な夕食を準備してロビンを待っていた。彼が一人で狩りに行ったことは何度もあった。その度にお腹を空かせて帰ってきたロビンのために、夕食をいつも準備していた。そんな姿を見た村人たちは、ロビンとカレンのことを夫婦のようだと茶化した。否定はするものの、その冷やかしがとてもこそばゆく、嬉しもあった。彼はどう思っているのか? 気にしない日はなかった。

 

「はぁ……

 

 今日何度目かわからないため息をつく。誰かが聞いてくれるわけでもない。彼なら優しくため息の理由を聞いてくれるだろうか? そんなことを思いながら椅子から立ち上がる。

 

 季節はずれの寒さをしのぐため、暖炉にまきをくべ、部屋を暖める。

 

 ーー彼がいつでも帰ってきてもいいように。

 

 部屋を一瞥する。小さな棚には綺麗な一輪挿しの花瓶。あれは確かこの部屋に少しだけでも華やかにしようと持ってきたものだ。今日新しく摘んだ花を生けてある。そのほかにも緑色の布に刺繍をあしらったテーブルクロスなど、一人暮らしの男の部屋には決して似合わないもの。

 

 作りかけの矢、天井からぶら下がった少し多すぎる薫製肉、そしてベッド。

 

 置いてある家具は彼がこの村に来たときから全然変わっていない。家具作りや、家づくりを簡単にこなしてしまう彼ならば、自分のためにももっと生活を便利にするものを作れるはずだ。

 しかし、食器の類も旅の時に使っていたであろうものを小さなキッチンで使用しているだけだった。新しいものといってもカレンが持ってきた食器類と調理器具ぐらいである。

 時々、彼がいつでも旅を再開できるように、わざとものを増やさないようにしているだけかもしれないと考えてしまう。

 

 彼が使っているベッドへと近づいてその縁へ腰を下ろした。そして体の力を一気に抜きドサリとベッドへ横たわった。

 

 ーー彼の匂いがした。

 

 顔を布団へとうずめ、深呼吸すると彼の匂いが鼻いっぱいに広がった。

 

「好き……

 

 彼への思いを口に出して見た。温かさと幸福感が胸いっぱいに広がるのを感じる。大好きな匂いに包まれ、いつのまにか眠りに落ちていった。

 

 ーー

 

 ゆっくりと体を起こした。目をこすりながらぼーっと部屋の中を見渡しいつもと違う部屋に気付く。そこはロビンの部屋であった。慌てて飛び起きて、髪を手櫛でとかし、ロビンの存在を確認するも、肝心な彼はおらず安堵のため息を漏らした。

 日がまだ上りきらない時間、いつもと違い村の中はざわついていた。村の外の騒ぎに気付きロビンの部屋を出る。

 騒ぎの中心に見慣れた馬がいた。騒ぎに駆けつけた村人たちが顔を見合わせて、馬が一人でに歩いてることに疑問を抱いていた。その馬には鞍が掛けてある。止めていた馬が逃げたか、準備中に馬を逃したとした考えられない。しかし、その鞍はしっかりと固定してあり、馬で村を出た後どこかに止めていたが、解けてしまったのだろう。

 

 駆け寄りその馬の存在がはっきりしてくると、妙な胸騒ぎがし始める。カレンはその馬の主人を誰だか知っている。

 

「ロビンさん……」 

 

 その馬の主人の名前をポツリとこぼす。

 

「ど、どうしたんだい……カレンちゃん」

 

 悲痛な表情を浮かべたカレンに心配そうに声を掛ける村人。

 

「おい、この馬ロビンくんのだよな」

「ああ。俺も知ってるぜ。でもロビンくんが馬を逃がすってヘマ見たことねえな」

「じゃあ、どうしたってんだ?」

 

 カレンは突然、村の入り口へと向かって走り出す。村人の制止を振り切り、村の入り口へ到着し、あたりを見回す。

 

「おーい、ど、どうしたってんだい。カレンちゃん、何か知っているのかい?」

 

 カレンを心配した村人たちが追いかけ、息を切らしながら問いかける。

 

「帰ってきてない……

「ん?どういいことなんだい?」

「狩りに行ったきり帰ってきてないんです!!!!!」

 

「「「なんだって!!」」」

 

 村人たちは声を揃えて異常な事態に困惑の色を強めた。

 

「おい、狼にでも襲われたんじゃないか?」

「いやいや、ロビン君にかぎってそんなことは……

 

 様々な憶測が飛び交う中、騒ぎを嗅ぎつけた村長のロベルトがやってきた。

 

「何事だい? こんな朝早くから」

「ええ実はロビ……

 

 カレンは村人の言葉を遮り、叫んだ。

 

「ロビンさんがいないの!! ねぇ、どうして!! どこいっちゃったの?」

「まあ、みんな落ち着いて」

 

 ロベルトは村人たちを諭すように告げた。その言葉に村人みんなが耳を傾け、次の言葉を待っていた。この村の村長であるロベルトへの村人からの信頼は厚い。それは日々の働きから彼への尊敬は絶えることはない。

 

「取り合えず、現状を把握しよう。ロビンくんがいない、それはなんでかね」

「おとうさん、ロビンさん昨日狩りに行ったきり帰ってこないの! もし、森で倒れていたりしたら、どうしよう……狼に殺されちゃうよ……

「カレンだけかね? ロビンくんの姿を最後に見たのは」

 

 村人同士、顔を合わせ確認し合うが、お互いに頭をひねるばかりだった。

 

「お、おい探す必要があるんじゃないか?」

「ああ、大事な村の一員だ」

「おい、馬の準備だ、急げ!」

 

 村の男たちが慌ただしく準備を始めた時だった。

 

「あれ? 何かあったんですか?」

 

 そこには顔立ちに幼さが残るが整った顔をした青年が不思議そうに村のみんなを見ていた。片手には弓を持ち、腰からは矢筒をぶら下げていた。

 

 カレンはその青年の姿を見て一目散に彼の胸元へと飛び込む。その体つきとは思えない強さで彼の体は少しだけ仰け反るが、それを優しく抱きとめた。

 

「えっと……

…………っ」

 

 胸に抱きとめられたカレンは、次第に肩を震わせながら小さくしゃくりあげるように泣き始めた。

 

「あの……

 

 事態についていけず、言葉を漏らすロビンだったが、呆れたように村人たちは言った。

 

『ったく心配かけやがって』

『あ~あ、カレンちゃん泣かせちゃったなあ』

 

「え??」

 

『女を泣かせるようなやつだとは思ってなかったけどなぁ』

 

「ええ??」

 

『こりゃあ、村長のゲンコツ確定だな』

 

「えええ~?」

 

 周りから聞こえてくるのは脅しなのか、冷やかしなのかよく分からない言葉が行き交う。カレンは彼の胸元から離れ、彼の顔を睨みつけた。

 

「遅いです! いつも夕飯には帰ってきてくれてたのに昨日に限ってなんでちゃんと帰ってきてくれなかったんですか!」

「ご、ごめ……

「せっかく頑張って夕飯作って待ってたのに! それにあれだけ心配させないでって言ったのにまた心配させて! もう、ロビンさんなんて知らない!」

「ちょ、ちょっと待っ……

 

 怒涛のようにまくし立てられたロビンは頭の整理がつかず、村人たちに視線を向けるも村人たちはやれやれと言った表情で冷やかした。

 

『おうおう、朝から夫婦喧嘩とは大変だな、大将!』

『ホント、ホント。全くもう……

『いや~、いいもん見れたわ! はっはっは』

 

 カレンを追いかけ、何度も名前を呼び引き留めようとする。しかし、立ち止まらない。ロビンはカレンに何度も謝るが、こちらを見ようとしてくれなかった。しかし急にカレンは立ち止まり、振り返った。

 

「えっと……ごめん。その……心配、かけたよね」

「昨日も仕事約束してたのに、突然断ったりして。ほんと、ごめん」

「珍しい赤い鳥を見つけてさ、そしたらもう日が暮れて……、ちょっと迷ってしまって」

 

 振り向きだまってうつむき続けるカレンが妙に恐ろしく見えた。

 

「えっと……カレンさん?」

「なんですか……

 

 やっと口をきいてくれた彼女は俯いて不機嫌そうな声音でやっと答えてくれた。彼女が振り返った場所はちょうどロビンの家の前だった。

 

「どうして昨日……あんな顔してたんですか?」

「あんな顔って?」

「どうして……あんな……あんな……辛そうで……思いつめて……

 

 カレンの肩は小さく震えだし、その思いは一気にはじけた。

 

「どうしてなにも言ってくれないんですか?! わたし、ロビンさんに迷惑かけてるんじゃないかって、無理やりお仕事させてるんじゃないかって! わたし、不安で、不安で……

「その……ごめん」

「そしたら何? めずらしい鳥を見つけた? それを追いかけてたら、道に迷って森で一夜を明かした? 確かにロビンさん強いから狼が出てきても大丈夫だとは思うけど、あまりにも心配かけすぎです! 村のみんなにも心配かけて!」

「はい、すいません」

 

 カレンは目には涙をためて、肩で息をしていた。その表情は今にも泣き出しそうなのを必死にこらえながら時折指で涙をぬぐっていた。

 

「グスッ……話してください」

「な、何を?」

「ロビンさんが負担に思ってること全部です。」

「私、わかるんです。いつもと違うロビンさんだって」

「だって、あんなに辛そうでな顔初めて見たから。お仕事とか負担になっているんだったらちゃんと調整します! 私が甘え過ぎているのだったら直すから、全部言ってください!」

「仕事は別に苦ではないよ。みんな喜んでくれるから」

「だったらどうして……

……

 

 ロビンは黙り込んでしまった。ロビンの表情は徐々に曇りだし、カレンは心配そうにロビンの名前を呼んだ。

 

「ロビンさん……

「ここじゃ他の人に聞かれるし、家の中で話そう」

 

 二人は生活感のないロビンの部屋へ移動した。無言で台所へ向かうと、昨晩作ったであろう野菜がごろごろと入ったシチューが手付かずのまま鍋の中に入っていた。テーブルの上には二人分の食器が並べられ、いつでも食事ができるような状態だった。カレンは扉の前に立ったまま動こうとしない。

 

「料理、ありがとう。」

 

 カレンは何も言わないが、少し照れたようにそっぽを向いた。

 

「そういや~昨日から何も食べてないから、お腹減っちゃったな! せっかくだし温めて食べよ……

 

 陽気にそうはいってもカレンの表情は曇ったままだった。

 

 鍋に火をかけ、ゆらゆらと揺れる火を見つめながらゆっくりと口を開いた。

 

「三年前……

「え?」

 

 話し始めたロビンの声にカレン振り向き耳を傾けた。

 

***

 

「この中に腕に自信がある者はいないか?」

 

 屈強そうな男がその体を鉄の鎧で身を固め、村の中心の広場で叫んだ。その声に村の人々が集まり、その男の話に耳を傾けた。いかにも裕福そうな小太りの男が薄ら笑いを浮かべながら見下すように話を聞く村人を見ていた。

 

「ここにおわす方は偉大な領主様である。この度、領民のさらなる豊かな生活を願い、領地拡大へ向けた戦を準備されている! しかし、そのためには領民たちの協力が不可欠である! ここにいる男たち! そして腕に自信がある者は是非とも参加されたし! 心優しい領主様は十分な報酬を約束されるだろう!」

 

 声高々に語るその様は、その場にいる村人たちの心を惹きつけるようだった。

 

「ふふん、もちろんですとも。領地拡大に伴い、さらなる商いが可能となります。一時的な低迷はあるかと思いますが、そこは私の手腕の見せ所。是非とも私に協力していただきたいと思いますね、はい」

 

 その言葉にはいやらしい、下心が見え隠れするような声だった。 

 領民の豊かさよりも私腹を肥やすのに忙しい各地の領主は、日々領地の境で小競り合いを繰り返していた。この領主もその体型が物語るかの如く、その腹にはどす黒い欲望が渦巻いているようだった。

 

 狩りから帰ったロビンは、獲物を入れた大きな袋を担ぎ、片手には弓を持って家へと向かっていった。彼の家は広場を抜けた一角の隅にある借家だ。ちょうど、家来の男が広場の中心で、領主を褒めたたえながら戦への志願者を募っていた。少し肩身の狭さを感じながら広場の中心を横切ろうとしていた。

 

「おい、貴様! 何をしている! 止まれ!」

 

 領主の家来はロビンを止めようとしたが、その制止に全く気付いていなかった。

 

「貴様! この私を無視するとは!」

「ふふん、そこは領主様でしょ、はい」

 

 屈強な男の手がロビンの肩を掴んだ瞬間だった。男の視点はぐるりと回転し、いつの間にかロビンの肩ではなく、自らの主人である領主の肩を掴んでいた。二人は一瞬何が起こったのか理解するのに時間がかかったらしく、お互いに目をぱちくりしながら見つめあっていた。

 

「し、失礼いたしました! 飛んだご無礼を!」

「ふふん、私は構いませんよ、はい」

 

 領主は赤面しながら答えた。

 

「おい! 弓を持ったお前! お前だ!」

 

 ロビンはゆっくりと振り返った。

 

「貴様……、覚悟はできているんだろうな!」

「いや、覚悟ってなん……

「問答無用! 叩き切る!」

 

 男は鞘に収まった剣を右手で一抜きし、横一閃でなぎ払った。

 

 仕留めた。そう思わせるような見事な一撃は空を切った。瞬間に一歩後ろに飛び跳ねると同時に矢筒から矢を引き抜き、頭にめがけて弓を引いた。一人で狩りに出かけ、よく狼の群れと遭遇したときの対策を反射的に行ってしまっていた。

 

「き、貴様……一体……

「そ、それはこっちのセリフ! いきなり抜刀するなんて危ないじゃないか!」

「ふふん、そこまでですよ、はい」

 

 領主は今にも争いを始めようとする二人を制止した。

 

「ふふん、君、なかなかの腕ですね。どうです? 今回の戦に参加いたしませんか、はい」

「戦……

 

 戦という言葉を聞いて神妙な顔つきになるロビン。

 

「ふふん、参加は領民の義務です。しかし、私はそう強制するのは好きではありません。この村はこれから収穫の時期を迎えます。この時期に人手が減るのはこの村にとってもいいことではないと思います。しかしあなたを含む優秀な青年たちが、この村の代表として戦うのであれば、それは村のためになるのではと私は考えますよ、はい」

……

「ふふん、私も数多くの戦士たちを見てきましたが、あなたは別格。私の部下でも最強であるこの男の一閃をかわしたのですから。動きのしなやかさ、反応速度、そして応用力。それは一朝一夕で身につくようなものではないですね、はい」

 

***

 

 ロビンの父は狩りの達人だった。毎日のように狩りについていき、弓矢の作り方、獲物の追い方、待ち伏せ方、燻製の作り方、罠の仕掛け方、凶暴な野生動物の殺し方、そして、村を守るための殺しの術もを教わっていた。

 

 村では巨大なクマがうろついているのを目撃していた噂があった。父はそのクマを狩るため毎日森の中を探索していた。同行を許してくれない父に内緒で狩りに行き、自らしとめてやろうと思っていた。父から学んだ技があれば、必ずしとめられる、そう思っていた。しかし現実はそう甘くなく矢を射っても、未熟なロビンの引く弓はまだクマを仕留められるような威力はなかった。

 

 傲慢

 

 ありったけの矢を射ってもクマは死ぬことはなくその凶暴さを増し、ロビンを殺そうとした。もう、何にも手段が残されていない中、ロビンは父に救われた。

 

 それは父親の命と引き換えに。

 

 それから村への肉の供給は減った。村を襲おうとする野盗も頻繁に出現するようになった。ロビンは負い目を感じながらも村のために、そして自分の命を救ってくれた父の死に報いるため、死に物狂いで自らを鍛え上げた。

 

 肉の供給も安定し、野盗の襲撃もぴたり止んでいたが、それまでの被害を考えると、償いきれないほどの犠牲を払っていた。村人の多くは励ましてくれてはいたが、父と、そして逝った村人たちへの罪の意識が、消えることはなかった。

 

 狩りや、村の守り以外にも他の仕事も手伝いもしていた。身を粉にして働くことでこの父と村の人たちへの償いができればと考えていた。

 

 しかし現実は甘くはなかった。野盗の襲撃で守りをしていた男達が殺され減ってしまっていた。この村は男手は少ないほうだ。さらに追い討ちをかけるように大事な働き手を失ってしまった。一人でも失えば、収穫が遅れる。遅れれば、その分次の準備に支障をきたす。さらには、税の支払いにも影響が出るだろう。ほとんどの村人は麦や野菜を育て牧畜を行い、貧しいながらも十分な生活を送っていた。しかしそれもギリギリの状態である。これ以上の犠牲は出せない

 

……行き、ます……

「ふふん、いいでしょう、はい。しかしまだ……

「待ってください」

「どうされたのですかな?」

 

 しばらくの沈黙の後、その重い口を開いた。

 

……僕だけでいいです」

「んん?」

「僕が……ここにいるみんなの分戦います、だから……村のみんなは連れて行かないでください……

「ふふん、そうは言いましても……

「お願いです!」

 

 領主の言葉を遮るように言った。

 

「ふふん、よろしいでしょう、あなたの実力をみて私もあなたの言葉を信じましょう」

 

(ふふん、確かにこの青年以外には使える駒がいなさそうですね、それにこれ以上男手が減ってはこの村も次の冬は越せないでしょうねぇ、私とてバカではありません。領民は全て私のもの、効率よく使わなければ、はい)

 

「あ、ありがとうございます」

「ふふん、構いませんよ。それでは明朝すぐ出発いたしますので準備の方をよろしくお願いいたしますね、はい」

 

 そういって部下の男とその場を去っていった。

 

「お、おい、ロビン。無理して……

 

 一人の村人が心配そうにロビンに話しかけた。

 

「無理じゃない!!」

 

 村中に聞こえるような大声で叫んだ。

 

「お願いだ、みんな……今は大事な時期だ……これ以上、男手が減るは村のためにはならない。こんな俺がお願いできるよう立場じゃないのはわかってる。償いをさせてくれ……

 

 強い思いにを乗せた言葉に圧倒されたのか村のみんなは言葉を失っていた。

 

***

 

 昨晩に、必要なものは全て揃えた。小回りの効く二本の湾刀は刃物の中で一番得意とする剣だ。そして、弓矢。もっとも得意とする武器であり、今では父をも超える腕前とまで言われるようになった。この二つがあれば、戦い、生き残ることは可能だろう。そして、待ち合わせ場所へ着くとと村人達が出迎えてくれた。

 

「ロビン、こいつを持って行ってくれ」

 

 村人達が待ち合わせ場所で待っていてくれた。わずかばかりの食料、そして携行食品として食べている栄養価の高い木の実の詰め合わせ。丈夫そうな皮の鎧。そして、見事に鍛え上げられた一振りのロングソードだ。鞘から抜きその刀身は磨きがかかり、曇り一つない輝きを放っていた。渡してくれた村唯一の鍛冶屋の男の目の下は深いくまがあった。

 

「こ、こんな高価そうなもの……受け取れません! それにこんな俺なんかに……

「いや、村の代表で行ってくれるからというのもあるが、俺たちは気づいていたよ。」

「え?」

 

 村人の言葉にロビンは不思議そうな表情を浮かべた。

 

「おやじさんを亡くしたことで村に出た損害は全部自分のせいだって思ってるだろう? 村ってのは人が集まってできるものだ。肉の確保だって、村の警護だって俺たちがロビンのおやじさんを頼りっきりだったからな」

「気に病まないでくれよ、ロビン。お前だけじゃないんだ」

「ちゃんと帰ってこいよ!そん時はしっかり俺たちを鍛えてくれよ! あ! 燻製も作ってくれよな」

「ちなみにそいつは、俺の中での最高傑作だ! しっかり使い込んでくれよ!」

 

「みんな……

 

 今までは自分が全てを背負いこんでいたが、そうではなかった。みんな自らの怠慢や甘えを自覚し、それを言い出せないでいただけであった。心の負担がすっと降りたように感じた。

 

「ふふん、たいそうなお見送りですね、早速行きましょうか、はい」

 

 馬にまたがり、領主を乗せた馬車の後ろに付き従う。

 

「頑張れよ~!」

「帰ってきてね~!」

 

 村人の声援を受けながら村を後にした。

 

 

***

 

 

 最後の戦場は隣の領地との間にあった場所だ。まだ手つかずの土地であり、豊かな緑と広い草原が広がり、深い森があった。この場所こそ、件の争いの原因となった場所である。談合に談合を重ねても領主同士の醜い欲望の駆け引きは、結局は戦いで決着をつけようという結論に至った。

 

 この土地を開墾し、麦畑や牧場とすれば大きな収益へとつながる。誰が見ても豊かな土地だった。このような豊かな土地が今まで手がつかなかったのは、この土地を魔女が支配していたためだった。しかし、二人の領主の間で魔女の討伐を計画し、2年前に討伐された。この討伐をきっかけに各地で魔女がいると言われた土地では魔女狩りが始まり、地を争い、戦いが続いていた。

 

「ふふん、ここが最後の戦場となるでしょう、はい」

 

 疲弊してはいるが、屈強そうな男たちがずらりと並んでいた。その数はおよそ2000人。

 

「おそらく、向こうも同じだけの数がいます。あなたたちの戦いが、あなたたちの村を豊かにしてくれます。ぜひとも我が領地の繁栄と、あなたたちの村の豊かさのために戦っていただきたい。」

 

「それに私たちには最強の弓使い『鷹の目』がおります。ロビンくんここへ」

「はい」

 

 領主の台座の下へと現れた青年は1年前とは比べられないほどたくましくなっていた。顔にはまだ1年前とは変わらない幼さをまとってはいるものの、その瞳は濁り、淀みをまとっており、眼光の殺気の鋭さにその場に居合わせた男たちはたじろぐ。

 

 その場にその二つ名を知らないものはいなかった。父から教わった技、狩りで鍛えられた野生の感覚、そして自ら練り上げたものが、彼を最強に上り詰めさせた。一つの戦場で弓矢での討伐数は必ず100は超えている。専門の矢筒持ちが二人いる。矢を同時に三本射る。必ず急所を穿つ。鉄の盾を貫く。300m先の人の喉を撃ち抜く。白兵戦となってもその珍しい湾刀を巧みに操り、速さで敵を圧倒した。最前戦に出ても申し分ない働きをすることは周知の事実であった。そしてこの領地争奪の最高の功労者でもあるのだ。

 

「ふふん、今回の戦も期待していますよ、はい」

「ありがとうございます」

「みなさんも、ぜひこのロビンくんのように素晴らしい働きを期待しております。そして……

 

 士気を高める領主の話の途中、ロビンを睨みつけ、こそこそと話をする者たちがいた。

 

「おい」

「ああ」

 

 ーー夜 

 

「気にくわねぇぜ!」

 

 複数の男たちが一つのテントに集まり、輪になっていた。その場にいる全員が不満そうな顔を並べていた。

 

「おそらく、今回の戦も俺たちが勝つに決まっている」

「ああ、間違いなくな……

「それも全部、あの「鷹の目』様のおかげだろうよ!」

「ちくしょう! あいつの行いを思い出すだけで腹がたつぜ!」

 

 ロビンは強い。しかし、それを快く思はない者たちもいた。勝ち取った領地を褒賞として与えられ、独占するのではないかとこの場に集まった男たちは考えている。

 

「おい、このままだと、ごっそり持っていかれちまうぜ!」

「ああ、なんたって領主様のお気に入りだからな」

 

 事実、この野営地でのロビンの扱いは最初の頃に比べると、目に見えて他の傭兵たちとは違っていた。簡単な毛布を充てがわれ床の上に敷いて寝る傭兵とは違い、ロビンはベッドを与えられ、食事は領主に招かれることも度々あった。装備品も優先的に回されることもある。ロビンの働きから当然だと思う者もいれば、それを妬む者もいるのだ。

 

「ただの傭兵だぞ! それに俺たちだって同じ領民だ! 平等にしてほしいもんだぜ、まったくよう!」

「まあ、落ち着けって。それにまだ褒賞のほとんどがあいつの物になるって決まったわけじゃないだろう?」

「でもよう、あの待遇を見る限りだと確実に……

「ふふん、失礼しますよ、はい」

 

 不平不満を遮り、テントの中に入ってきたのは領主だった。その後ろには精鋭の二人。

 

「みなさん、ご不満がたまっているようですねえ」

「りょ、領主様! な、なんで……

「い、いや……不満なんてそんな……

 

 愚痴をこぼしていた男たちは背筋が凍った。雇い主であり、領主である男の愚痴を本人に聞かれてしまった事実は隠すことができない。青ざめた表情をして、必死に許しを乞うた。

 

「ど、どうか! この通り許してくだせぇ!」

「すんまんせん! すんません!」

 

 汚い物を見るかのように領主は見下すも、汚らしい笑顔を見せて言った。

 

「ふふん、実はみなさんにお願いがあります、はい」

 

 ニヤリと浮かべたその表情は欲望を満たさんがための表れだった。

 

「りょ、領主様のためだったらなんでもいたしやす! だ、だから命だけは!」

「ふふん、ありがとうございます。もちろんあなたたちの命を奪うなどと、そんな非効率的なことはいたしません。やろうと思えばいつでもできることですからねぇ、はい」

 

 男たちはその言葉に戦慄をおぼえた。ああ、これが権力なんだと絶望する。領主の言葉は続く。

 

「私としてもあの青年は今後邪魔になると判断しています。領地拡大という大義名分の欲にまみれたこの戦で、英雄などは必要ないのですから」

「それに私はこの領地を手に入れた後、皆さんのように欲にまみれた方々と仕事をしたいと思っております。欲望はいい。満たそうとすればするほど心に火をつけ、情熱という名の甘美な響きへと生まれ変わる。どうです? いやらしい欲望を満たそうとするほどやる気が満ちてきませんか?」

「ああ、領主様の言う通りだぜ。」

 

 その場にいた男たちが自分たちが領主に用いられる満足感と話に納得するかのように顔を見合わせる。

 

「りょ、領主さま! おれたちゃ~何をしたらいいんですかい?」

「ふふん、簡単なことです。彼を殺すのです、はい」

「こ、殺す?」

「ええ。もちろん、味方の誰にも気づかれてはなりません」

「そんなどうやって?」

 

 疑問を持った一人の男が領主へと尋ねた。

 

「簡単なことです、入り乱れた戦場で彼を殺す、敵のふりをしてね」

「そんな簡単にいくんですかい?」

 

 男たちはそう簡単に事が運ぶはずがない、というように顔を見合わせた。

 

「寄せ集めの領民、革鎧だけの装備。持っているのは領民の証。敵側のものを手に入れることなど私には簡単なことです。お願い、できますか?」

「へへ、そんな簡単なことなら朝飯前ですぜ」

「ああ、やってやろうぜ」

「ふふん、お願いしますよ、はい」

 

 精鋭二人は、敵側で使われている領民の証を男たち渡し、どこに身につけておくか、どのタイミングで見せるかを事細かく説明した。

 

「それで~領主様、これが終わったら……

「ふふん、もちろんわかっております。褒賞はしっかりと色をつけてお渡しいたしますよ、はい」

 

 その言葉を聞き、男たちは薄汚い笑みを浮かべなら、計画を再確認した。

 

***

 

 羨望の眼差しを向けられれば誰でもいい気持ちになる。強さへの憧れは男なら誰でも抱く。そんな男たちの憧れの的となれば誰でも気持ちが良くなるもの。野営地を歩くたびにその眼差しを向けられ気分が良かった。最後の戦、皆が注目する自らの戦いをどのように敵を倒すか、戦場を圧倒しようかと考えていた。

 

「ろ、ロビンさん! 明日期待してます!」

「ロビンさん! また稽古つけてください!」

 

 領地争いの戦が始まってから、数ヶ月後には戦闘においてその頭角をあらわし、いつも好成績を挙げていた。そして、その頃からは、領内の英雄として憧れの存在へと変わっていった。戦い、勝利し、結果を出し、賞賛を受ける。そのサイクルがぐるぐると繰り返されるうちに、無自覚のの思いはどんどん膨張し続け、さらなる快感を与えてくれた。

 

「ふふん、調子どうですか、ロビンさん」

「ええ、領主さま、すこぶる調子がいいです。任せてください」

「期待していますよ、我らが英雄ロビン」

 

 英雄

 

 その言葉に快感を覚え、体を震わせた。自分は今なんでもできる。何人たりにも負けることはない。心は徐々に一つの思いに蝕まれていった。

 

***

 

 戦いは我々が優勢。日の出とともに始まった戦いは、ロビンを先頭に敵の最前線を打ち破り、突破口を開いた。現在は入り乱れた白兵戦となり剣戟の火花が飛び交っていた。

 

 ロビンは馬を巧みに操り、馬上からロングソードで敵を討ち払い戦場を駆ける。

 

「ロビンさんに続けぇ!」

「おい! 誰かあいつをとめろおおお!」

「まずい! あいつ『鷹の目』だ! なんとかあいつを殺さねぇと勝機はないぞ!」

 

 敵の断末魔のような叫び声が聞こえて来る。その声がさらなる興奮を掻き立てる。そして勝利はもう目の前に近ずいていると感じられたその時だった。

矢が腕と馬に命中し、馬は驚き嘶き、馬の背から放りだされた。かろうじて受け身を取ることができたが、腕に刺さった矢が地面に押し付けられ、さらに腕を貫く。苦痛に顔を歪ませながら即座に立ち上がろうとした。

 

 瞬間、右側頭に鈍痛が走った。

 

 気を失い掛けたが、歯を食いしばり耐える。体はうつ伏し、痛みを堪え、目を開くとそこには敵領の兵が見下ろし、今まさに剣を突き下ろそうとしていた。体は思うように動かない。手足は震え、言うことをきかない。芽吹き咲き誇ろうとしていたその思いは一気に枯れ始め、彼に死の恐怖を与えた。

 

 死ぬ。

 

 男の突き下ろす剣は俺の首を掠めた。

 

「ロビンさんを助けろ~~~!」

「「うおおおお!」」

 

 慕ってくれている複数の領民が、ロビンにとどめを刺そうとしていた敵領の兵の背中を切り裂いた。

 頭の痛みと戦いの疲労が一気に押し寄せ、意識はそこでプツリと途切れた。

 

***

 

 野を焼く匂いと、肉を焼く匂いが入りまじり、吐き気をもよおす。その草原は、豊かな緑とは程遠い姿をしていた。踏み荒らされた草原。血を染み込んだ大地。転がる屍体。この惨状をみて美しいい光景を思い出せるものいないだろうと。

 

 勝利はロビンの所属している領主側に軍配が上がった。

 

「ふふん、これで全員ですか、はい」

「そのようです」

 

 領主の問いかけに、部下が答えた。

 

「ここにいないということは……

「恐らくは……

「わかりました」

 

 領主は思惑通りに事が運んだことに、口角を釣り上げる。戦いに疲労の顔を浮かべる傭兵たちの前にたち、労うように声をかけた。

 

「皆さん、おつかれ様でした。この勝利は必ずや、皆さんに新たな豊かさをもたらしてくれるでしょう。そして……

 

 長い労いの言葉のち領主が言った。

 

「残念ではありますが、我らが英雄ロビンは死んでしまいました」

 

 その場にいる者たちはどよめいた。

 

「この地を焼き、弔いの炎で彼を送りました。皆さんには悲しい出来事かもしれません。彼がこの領地にもたらしたその恩恵は計り知れません。さあ、祈りを捧げましょう」

 

 その場にいる皆が立ちあがり、静かに祈りを捧げたのであった。

 

***

 

 熱い。

 

 身を焦がす危険が迫る中、ゆっくりとまぶたが開く。瞬間、各部の痛みが走りまた気を失いそうになる。しかし、以外にも痛みが意識を明瞭にする。息絶えた屍体が横たわる中ゆっくりと体を起こそうとするが一つの屍体が覆いかぶさっていた。その骸は一番慕ってくれていた男だった。その男が自分を慕い、ともに稽古した日々が思い出された。

 父を失った場面が走馬灯のように思い出される。そして歯を食いしばり自らの愚かさを呪った。

 まただ。また、この気持ちに支配されていた。 

 

 傲慢

 

 この思いは、いつも誰かを不幸にする。自分以外は役立たず。一人で勝つことができる。そう言った思い上がりは次第に心を汚し、誰かを巻き込み、大切なものを失うようになっている。ともに戦う仲間を足手まといと決めつけ一人戦場を駆け抜け、一方的に慕われていただけで、自分はこの男の名前さえ覚えてさえいなかった。その瞬間、自分にはも何もない。空っぽな心だと気付いた。

 

「もう…………やめよう…………

 

 死にかけの自分がなんとくだらないことをしていたんだと教えてくれた。もう、この気持ちには囚われないようにと剣を自分の喉へと突きつけた。

 

 しかし、貫くことができない。

 

「うぅっ…………

 

 怖い。死への恐怖がその手を止める。カタカタとその手は震え、剣はガランと音を立て地面へと落ちた。この手は多くの命を奪ってきた。今まで手にかけた人々はこの恐怖を感じながら死んでいったのかと思うと、自分はとんでもないことをしていたと思い知らされた。命を奪う瞬間、自分は何を思っていたのか……

 

 快感

 

 矢を命中させた瞬間、首をはねた瞬間、人の命を奪う瞬間。その瞬間瞬間ロビンは悦んでいた。人を殺める快感を味わっていた。面白がって、捕虜を的にして矢を射った。周りは悦んだ、自分も悦んだ。今日は何人殺した。明日は何人殺す。今日は殺した数は一番だ。俺は強い、誰にも負けない。一人でなんでもできる。そんな思いがとぐろを巻いて大きくなりすぎ、ついには弾けた。

 

「生きよう……

 

 自ら命を絶つこともできないようなら、せめて不幸に生きよう……。惨めに生きればせめてもの償いになるかもしれない。自分が幸せになろうとするのならその幸せは誰かに譲ろう。これから自ら不幸せの道を歩むことを決意し、自らを奮い立たせ、戦場を後にした。

 

***

 

 温め直したシチューは再び冷めてしまっていた。窓からは夕日が差し込み夕暮れを伝えていた。カレンは話を最後まで黙って聞いていたカレンは目を見開いて動揺を隠せていない。

 

「軽蔑しただろう? 僕は人を殺すことに快感を覚えていたんだ」

「僕は幸せになってはいけない。自ら楔を打ち込まないとまた、誰かを不幸にする。傲慢が僕の周りの人々の幸せを奪っていってしまう。少しでも傲慢さを感じるたびこの時の夢を見るんだ。」

「償いのためと思いながら村のために働けば、村のみんなが信頼を寄せてくれる。」

「その信頼を得るたびに、心の中に芽生えるんだ、傲慢な思いが……

「夢が教えてくれる、今のお前は傲慢ではないか、と」

「その夢を見るたびに僕は村を出て旅を再開するんだ」

 

 ハッとした表情でカレンは顔を上げる。

 

「僕はまた夢を見た……だからもう……

「だめ!」

 

 言葉を遮り、カレンは立ち上がった。その肩は細かく震え、瞳に涙を抱え、悲しみを含んだ声でカレンは続けた。

 

「ロビンさんはこの村の一員です! どんな過去があろうと、あなたはこの村の一員です! 村のみんなはロビンさんが今、村からいなくなったらどれだけ寂しく感じると思いますか? どれだけロビンさんを頼りにしていると思っているんですか? 私だって、私だって、今ロビンさんが居なくなるのは、イヤ!」

 

 カレンは自らの気持ちを消え入りそうな声で言った。大粒の涙がその床を濡らしていた。

 

「私は……イヤ……

「でも……僕は……

「わからない! わからない! だけど……だけど……あなたがいなくなることで不幸になる人だっているんです!」

 

 ロビンは驚いていた。考えもしなかった。自分がいなくなることで誰かを不幸にするということを。

 

「幸せになってはいけない人なんているわけないじゃないですか……

「ロビンさんは、ロビンさんは、幸せになりたくないんですか?」

「僕は……」

 

(自分の人生は償いの人生だって。不幸に生きることこそ自分の人生だって。今問われていのは自分の幸せ、考えたこともなかった……)

 

 カレンは足元を見つめて自分のことも話し始めた。

 

「孤児だった私は本当の両親も、生まれてからの思いでも何も覚えていないです……。だけど……そんな過去どうだっていいんです。どうせ悩んだって過去は変えられない。だから過去にとらわれずに前に進もうって」

「ロビンさんの過去だって変えられないです。変わらないんです。ですけど思うんです……。過去に縛られているだけじゃ、ロビンさんも、他の人も幸せになれないって!」

「私は、私は、ロビンさんに幸せになってほしい! 一緒に、一緒に、幸せになってほしい!」

「だから、だから、え……?」

 

 自然と涙あふれていた。そして声を押し殺すようにしゃくりあげていた。まだ大人にもなっていない時から自分を押し殺して生きてきた。そして自責の念を積み重ねてきた心はとっくに限界を迎えていた。

 必要とされていること、居てもいいということ、そして幸せになってほしいと願われていることが、心の奥底に押さえ込んでいた幸福への欲求が今弾け、姿を表した。

 

「ボグは……いても……いても……いいのかな?」

 

 カレンはゆっくりと抱きしめ、そっと頭を撫でてくれた。

 

「大歓迎です。それにもう、ロビンさんは村の大事な……大事な一員なんですから」

 

 すっかりと暗くなり、季節外れの寒さが部屋を覆うが、その寒さを忘れるくらいの暖かさがそこにはあった。

 

***

 

 その日を境に、ロビンはより精力的に働くようになった。そして、カレンはより世話を焼くようになり、家によく来るようになった。通い妻とチヤホヤされたが、二人の関係は進展することはなかった。

 

 自らの過去を吐露したとしても、未だに悪夢悩まされつづけていた。